品質データ活用への道 Vol.1 「DX知見のある人材」の具体的な人物像とは?

猫も杓子もデータ活用。しかしうちの工場の品質データは未だに手書き、EXCELの手入力。活用はおろか、過去の検査結果を探すだけでもパソコンの中をひっくり返す日々・・。

昨今のブームに乗っかり、巷にはデータ分析用のソフトウェアやサービスが溢れかえっています。

同じビジネスデータでも、営業やマーケティグのデータはデータ化され、徐々にデータ活用が進化しています。
他方、品質データのデータ活用は話題に上がる事すら稀です。
本ブログでは「品質データ活用への道」として数回に分けて、品質データ活用にまつわる課題や、導入障壁の解決法を詳らかにすべく事例を交えて連載していきます。

初めにデータ活用が進まない理由としてどのようなものが考えられるでしょうか。多く聞かれる理由の一つに「知見のある人材がいない。」という問題が挙げられます。

出典:2024年版ものづくり白書、P19 ものづくり人材の能力開発の現状


弊社ソフトウェアを導入頂いているお客様の悩みも共通しています。品質データ活用基盤(システム)を導入する場合、実際に活用方法に対する知見や、活用基盤作成プロジェクトを取りまとめる人材がいないという問題が最も多く聞かれます。

さて、データ活用基盤づくりや活用を推進する人材がいないとなれば、

・育成する
・外部から連れてくる
・外注する

の3択しかないのですが、よくある失敗パターンが専門家(ITスペシャリストや品質スペシャリスト)にデータ活用の基盤作りを任せてしまうケースです。

ところで、品質専門家とIT専門家のどちらが主体として進めるのが良いのでしょうか?どちらが重要かと言われれば、どちらも不可欠なのですが、仮に両方の専門家が揃っていてもそれだけで成功は約束されません。

弊社に多く寄せられる声の中に、
ITやシステム部門に頼らずにデータ活用を行いたい。
という相談がよくあります。ある程度の企業規模になると、本格的なデジタルデータ活用をシステム部門を介さず行う事はほぼ不可能です。なぜシステム部門に頼りたくないか理由を伺うと、ほとんどの場合下記の2つに集約されます。

  • 難解なシステム上のルールや制約ばかり並びたてられて、結局何をどうすればデータ活用に必要なシステムを導入して貰えるのか分からない。
  • 打合せをしても専門用語が多く何を言っているのか分からないし、品質に関しては素人なので、こちらの伝えたい重要な内容を上手く理解して貰えない。

システム部門(管理側)が主導権を握り、ビジネス部門(ユーザ部門)が振り回されるというケースです。もちろんこの反対もあり、ビジネス部門が無秩序にインストールしたソフトのトラブル収集に頭を抱えるシステム部門が存在するのも事実です。ユーザビリティを優先するか、ITガバナンスを優先するか頭の痛い問題ですね。

つまり、「ITやシステム部門に頼らずにデータ活用を行いたい。」という言葉の裏には、「システム部門は言葉が通じず、面倒くさいので、自分たちだけで何とかしたい。」という意味なのです。
ほとんどの場合、コミュニケーション不足が原因なのですが、彼らも話し合いをしていない訳ではなく、「話が通じない」事が主な原因です。

さて、ここで主題の「DX知見のある人材がいない」問題に戻りますが、「知見のある人材」とは、どのような人材なのでしょうか。

それはずばり「通訳」です。
弊社のユーザでデータ活用が効果を発揮してる企業では、必ずと言って良いほど通訳が存在します。つまり品証部門、システム部門の両方の知識を有し、両者の橋渡しができる人材が存在します。

この通訳が行う仕事は下記のようなものがあります。

  • 品証部門の要求仕様を削減、補完し、必要なデータや条件を洗い出す。
    ただデータを集めれば良い訳では無く、目的に必要なデータの取捨選択をする。システム側が技術的に困難な部分は代替案を提示する。
  • システム部門へ伝える時、IT用語に変換して伝える。(又はその逆)
    品証部門の専門用語や、技術的要望をIT用語に変換してシステム部門へ伝える事が出来る。他方、システム部門からの質問を品証部門が理解できる言葉にして説明する事ができている。

このような通訳を行うためには両方の部門に一定期間在席し、ある程度経験値を積まなければならないので、社内で人材育成するのは非常に時間がかかります。また外部から人材を登用する場合、このような人物像に当てはまる候補者は簡単に見つかりません。

残るは外注する方法ですが、ここでも、「通訳」がいない事による問題が発生します。通常データ活用基盤を外注する際はシステム開発メーカやソフトウェアベンダに依頼する事が殆どですが、彼らも又、品証の業務プロセスや品質データの扱いに関しては専門外です。どのような成果物を依頼したいか品証専門外の方が分かる形に噛み砕いた仕様書を作成しなければ、望む形でのデータ活用基盤はできません。

人材の豊富な大手企業では本気で探せば通訳の役割を果たせる人物が一人くらい在席しているかもしれませんが、中小企業以下の企業規模の場合、通訳の人物像に当てはまる人材の確保は非常に困難です。

「それではどうしようもないではないか。」と声が聞こえてきそうですが、ずばり結論は「通訳込みの外注」です。システム開発を行っている企業も分野により得意、不得意があります。少なくとも品質データを扱うシステム開発経験のあるメーカへ依頼するべきです。

残念ながら日本での工業分野のデータ活用は始まったばかりで、欧州や北米と比べ、大きく遅れをとっているため、このような知見をもったシステム開発メーカやソフトウェアベンダ―は多くありませんが、外注先選定基準の目安とする事で、的外れな外注先へ依頼するリスクを低減する事ができます。

次回は、「真のアナログ評価脱却」について投稿します。