ISO/TR 11462-5:2023概要
統計的工程管理(SPC)の実装に関するガイドライン

規格策定の背景

モノを製造する場合の共通データフォーマットと言えばCAD(図面)です。現在では誰かが設計した図面を即座にオンラインで共有できる事が当たり前になっています。別々に設計された図面を、後でデジタル統合する事も当たり前に出来ます。


他方、図面を元に製造された製品の評価についてはどうでしょうか?
他社から提供されたデータを即座にソフトウェア上で検討し、比較する事ができるでしょうか?残念ながらEXCELに入れ直したり、自社の独自のフォームへ入力し直したり、変換したりする作業が必要です。

工程のオンライン(デジタル)データが増加し、それらを利用したデータに基づく評価を行う事で、意思決定の早さや、客観性が改善されるようになってきました。
また人を介さない自動データ記録を行う事でデータの正確性と改ざん防止効果があります。

その一方、装置メーカごとに異なるデータフォーマットに対応するためのコストや労力は増加しています。CADについては既にSTEPやIGESといった公的規格が制定されています。他方、図面に沿って製造した後の寸法測定の結果については、互換性のある共通のデータデータファイルフォーマットは存在しませんでした。

データフォーマットが異なるとデータ集約や活用にコスト、労力がかかる

そこで欧州、北米の自動車業界を中心に多数の企業が参画し、品質データフォーマットの標準規格、ISO/TR11462-5:2023が策定されました。

ISO/TR11462-5はこのような背景で策定された規格です。
2023年の9月に発行された新しい規格で、まだ日本語に関する資料をネット上で見かけない為、今回テーマとして取り上げる事としました。

データモデル

ファイル内のデータは下表のようにフィールド番号でカテゴリ別に分類されています。

データモデル基本構造

ファイルの種類

ファイル作成方法は2パターンあります。下図のように全部の情報を1つにまとめ、拡張子*.dfqとして出力するパターンと、*.dfx、*.dfdの2種類を一組とする構成でデータ作成するパターンがあります。ファイルの種類は機器のデータ出力方式により、最適な方を選択します。

表記ルール

例:
K0100 3
K1001/1 部品番号
K2002/1 特性1
K2002/2 特性2
K2002/3 特性3

必須フィールド

下記フィールドは必須であり、ファイル中に必ず記述する必要があります。

主要部品フィールド、特性フィールドリスト

主要部品フィールド
主要特性フィールド

部品、特性セクションの記述例

K0100 3
K1001/1 P10L3
K1002/1 ワーク10
K1003/1 WK10
K1041/1 DW0001
K2001/1 M1
K2002/1 Z位置
K2101/1 -250.0
K2110/1 -250.1
K2111/1 -249.9
K2001/2 M2
K2002/2 真直度
K2101/2 0.0000000000
K2111/2 0.1000000000
K2001/3 M3
K2002/3 ポケット幅1
K2101/3 50.0
K2110/3 49.9
K2111/3 50.1

主要数値フィールドリスト

主要数値フィールド

フィールド:日付/時刻フィールドのフォーマット

日付/時刻フォーマット

数値セクションの記述例

K0001/1 2.01
K0002/1 0
K0004/1 20.02.2022/07:29:32
K0005/1 1
K0010/1 2
K0014/1 SR0001
K0001/2 10.15
K0002/2 0
K0004/2 20.02.2022/07:29:32
K0005/2
K0010/2 1
K0014/2 SR0002
K0001/3 5.3
K0002/3 0
K0004/3 21.02.2022/08:29:32
K0005/3 2
K0010/3 1
K0014/3 SR0003

フィールド:管理図

管理図主要フィールド

管理図セクションの記述例

K8012/1 -249.98
K8013/1 -250.062
K8500/1 5
K8501/1 0

カタログ

ISO/TR 11462-5はカタログと呼ばれる参照テーブルを使用します。
装置番号、治具番号、作業者名といった繰り返し登録されるトレーサビリティ情報を予めリスト化しておき、数値データにはそのテーブルに対応する番号のみを付帯させます。

マシンカタログ

マシンカタログ記入例(K0010に対応)

マシンカタログ記入例

カタログ呼び出し例

K0010/1 2=1つめのデータにカタログの2番を割り当てる

画面上は下図のように数字ではなく、カタログのテキストが反映される。

品質データフォーマット規格に対応するメリット

ユーザ

  • データ収集、統合の処理方法を気にする事なく、精度や速度、使い勝手など、設備の主要スペックで選定できるようになる。
  • 購入した装置のデータを即座に既存のデータベースへ統合できるようになるため、データ統合にかかるコスト、時間を大幅に削減できる。

装置メーカ

  • 測定機器メーカ、装置メーカは顧客ごとにデータ出力仕様を複数用意する必要が無くなるため、開発に余分な労力をかける必要が無くなります。