品質データ活用への道Vol.4
~データ活用の始め方~
前回Vol.3でデータ活用目的を初期段階で明確にするのが最重要である事をお伝えしました。
今回はどこから、どのような順番で着手すれば良いかというお話です。品質データ管理の仕組み作りに着手する際の問題には各企業間で多くの共通点があります。
以下は、導入時に良くあるご相談です。
- データ活用したい機器の中には、型式が古くデジタルデータを出力できないものがある。
- 全ての検査装置、測定機器のデータをカバーするだけの十分な予算が無い。
- どんな分析がをしたら良いか分からない。
デジタルデータを出力できない装置
結論から言うと「後回しにする」です。こう言ってしまうと身も蓋もありませんが、長年アナログベース(紙など)で管理してきたデータをデジタル化する事には、殆どの場合、単純にアナログデータをデジタル入力に変えるだけでは解決しません。
最も簡単なのは装置をデジタル出力対応のものにしてしまう事ですが、費用面で直ぐに実現できない事もあります。アナログデータをデジタル化する方法は非常に多岐に渡ります。1日10件しかデータが発生しないユーザもあれば、1日で数万件の検査データを扱うユーザも居ます。1回の検査項目が数個しかない事もあれば、1回の検査で800以上の検査項目があるユーザも居ます。検査設備が同じ工場内に並んでいる現場もあれば、検査設備が数百キロはなれた工場に個別に配置されている事もあります。ユニバーサルに対応できる正解は存在しません。
デジタル化されていない現場は長い時間をかけて紙での管理や手入力での方法に最適化されています。そのプロセスの一部分を単純置き換えでデジタルデータ入力にするというような付け焼き刃では、かえって不便になったり、時間がかかったりして、現場からの大きな反発を生む原因となります。
どのようなデータ活用システムを構築するか決める前に、最適なデジタル化の方法を導き出すのはほぼ不可能に近いと言っても過言ではありません。
大切なのは既にデジタルデータを取得できる設備を使用して、とりあえずスモールスタートで仕組みを作ってしまう事です。データのインプットからアウトプットまでの全過程を机上で設計するのと、実際に少し使ってみた事で得られる「気づき」を含めて設計するのでは、完成度に天と地ほどの開きがあります。
初めに目的に合った小規模のシステムを作り、まず手持ちのデジタルデータで運用できる形を作ってしまい、それに合う入力方法を考える方が、必須条件を具体的に絞りこむ事ができるので、目的がブレず、要件を検討しやすくなります。また、デジタル化するという手間な作業をする前に、完成時のメリットを体感できているというのはモチベーション向上にも繋がります。
デジタル変換する方法を真っ先に検討するという案件も多数経験してきましたが、最終的なアウトプットが確定していない場合、「紙で管理していた時は、こんな事もできたのに自由度が低くてやりにくい。」「紙で管理していた時の方が早かった、簡単だった。」というような意見が噴出し、結果的に「今のやり方が結局一番手間が少ない。デジタル化は作業者の工数が増えるので無意味。」という結論で終わってしまうケースを多く見てきました。
入力したデータから作られるアウトプットが明確になっていないため、いつの間にか「活用するためのデータを如何に効率よくデジタル化するか」というゴールが、「入力者に今以上の負担をかけない」というゴールにすり替わってしまうパターンです。
デジタルデータ活用のメリットや成果が具体的に見えていない状況で、一段ハードルの高いアナログデータのデジタル変換に着手するのは困難でるため、「後回し」を推奨します。
全てをデジタル化する予算が足りない
一度に全設備のデータをデジタル化して、活用しようとする事は、むしろお勧めしません。前段でも言及しましたが、運用開始後の方がはるかに多くの「気づき」を得られるからです。改修の余地を残し、「まずやってみる」事が第一歩として重要です。
最もやってはいけないのが、「予算が足りないから、まずデータ収集の仕組みから作る。」です。これは2重の意味で悪手です。
1つめは、活用方法から逆に辿って必要なデータを洗い出すという基本手順に反するため、後で足りないデータ、不要なデータが出てきます。結局、データ再編が必要になり、本来不要であったはずのデータクレンジングや、補完工程が入り、「複雑、遅い、高額」のデメリットを最初から背負う事になります。
2つめは、投資効果が見えない無いという点です。ハードウェアであれ、ソフトウェアであれ、必ず「費用対効果」を求められます。しかしデータを集めただけの段階というのは、言うなれば、「倉庫にバラ積みされていた材料を整理して機械の前に並べただけ。」の状態と何ら変わりません。少なからず労力はかかっているものの、結果として材料には何の付加価値もついていません。データは目に見えないので、傍から見て進捗が分りづらく、継続して関係者の興味を引き付けたり、予算を獲得する事が困難です。小規模でも良いので、必ずインプットからアウトプットまでを導入段階で完成させ、レポートが出せる、工程能力が計算できるなど、誰の目にも明らかな「目に見える結果」が残る形でスタートする事が重要です。
どんな品質分析をしたら良いのか分からない。
どんな分析をしたら良いか分からない時点では、まだ分析が必要な段階ではないと考えるべきです。
昨今、「データ分析」と銘打ったセミナーが至る所で開催されています。しかし、それらの殆どが、「まずデータを入力して・・」とか、「CSVやEXCELなどの汎用的なデータを読み込み・・・」などの説明で始まっています。
しかし弊社へお問い合わせでは大手製造業も含めて、殆どが分析ソフトウェアに読込ませるデータを作る事が最大の悩みとなっています。つまり分析はおろか、グラフなどに纏まって整理された形のデータをまともに見たことも無い状態にあるという事です。「見える化」が出来ていない状態で、どのような分析が必要か分かるはずもありません。
このような段階のユーザに「〇〇分析ではXXの傾向が分かります」という説明をしても全く刺さらないため、弊社は初期段階で分析の話を深く掘り下げる事はしません。
本来は、「データを見る限り〇〇という傾向がありそうだが、それを知るにはどんな分析をすれば良いか?」という疑問が先に立ち、その解として様々な分析手法があり、素早く、簡単に行うため分析ソフトを導入する、というのが自然な流れです。弊社でも分析の有用性をプレゼンで訴求していますが、データ活用の導入段階で分析に関する質問を受ける事は殆どありません。
中小企業庁が「身の丈IT」を提唱していますが、品質データに限らず、データ活用については導入するソフトウェアやシステムの価格・規模だけではなく、ユーザのデータ活用リテラシーに合ったものでなければ有効活用できない事を示唆しています。
1988年に富士フイルムから「DS-1P」という日本初の量産品デジタルカメラがリリースされました。当時は画像をデジタル化するだけの機能でしたが、「取り直しが出来る、フィルムや現像が不要」というメリットだけで十分画期的であったと思います。今日ではデジタル画像を記録する機器は(現在はカメラではなく圧倒的にスマートフォンやタブレット)、当然のようにSNSなど、インターネットとのシームレスな連携機能を要求されます。SNSの無かった当時の人達に今の状況を説明しても、何故カメラとネットが連携する必要があるのか全く理解されないでしょう。
同じデジタルデータでも、そのデータを扱うステージによって用途は変化します。高度な分析手法は、自社のデータを可視化したこともない段階では、活用法など思いつくはずもありません。どんな分析が必要なのかという問いは、まずデータの可視化をスタートする事で自ずと答えが出るのではないでしょうか。
次回は、「アジャイルマニュファクチュアリングに適したデータ構造」をお送りします。
品質データ活用についてのご相談はコチラまで。相談無料です。