品質データ活用への道Vol.4
データ活用の始め方~


前回Vol.3でデータ活用目的を初期段階で明確にするのが最重要である事をお伝えしました。

今回はどこから、どのような順番で着手すれば良いかというお話です。品質データ管理の仕組み作りに着手する際の問題には各企業間で多くの共通点があります。

以下は、導入時に良くあるご相談です。

  • データ活用したい機器の中には、型式が古くデジタルデータを出力できないものがある。
  • 全ての検査装置、測定機器のデータをカバーするだけの十分な予算が無い。
  • どんな分析がをしたら良いか分からない。

デジタルデータを出力できない装置

結論から言うと「後回しにする」です。こう言ってしまうと身も蓋もありませんが、これには理由があります。

理由1:アナログ→デジタル変換の高コスト
長年アナログベース(紙など)で管理してきたデータをデジタル化する場合、単純にアナログデータをデジタル入力に変えるだけでは解決しません。最も簡単なのはデジタル出力対応の装置に変えてしてしまう事です。費用面で難しいという意見を多く聞きまが、実際にはアナログ→デジタル変換(AD変換)にもかなりのコストがかかります。
AIの発達で現在AD変換する方法は多数ありますが、以下がその一例です。

  • OCRを使って紙データをスキャンする
    以前は精度が低かったOCRも今はAIに補正させることで飛躍的に精度が上がっています。
  • タブレットにアプリを入れ、そこへデジタルデータを手入力する。
    タブレットの汚れや、落下による問題が付きまといますが、AD変換ではおそらく一番低コストです。
  • 手書きタブレットを使う
    紙の入力帳票をスキャンし、タブレット上に手書き入力する方法です。昨今は汚れに強いタブレットが出てきており、手書き文字の認識もAIの補正でかなり精度が上がっています。


アナログデータをデジタル化する方法は非常に多岐に渡りますが、問題の根っこは同じで、AD変換はデジタル→デジタル変換(DD変換)よりはるかに多くのコスト、時間がかかります。デジタル対応の検査装置、測定機に買い替えるのはコストがかかるので、アナログ機器のまま紙からデジタル変換にした方が安いと考えるのは早計です。上記のような理由で当社ではコンサルティングの段階で可能な限りデジタル機器の導入を推奨しています。

理由2:アナログ→デジタル変換の速度
以前、お客様からこんなことを言われました。
「とりあえず、手当たり次第に紙帳票をスキャンしてPDFにしてAIにデータを構造化させられたら簡単なんだけど。」
将来、本当にそうなるかもしれませんが、残念ながら現在の最新のAIをもってしてもそこまでの力はありません。

1日10件しかデータが発生しないユーザもあれば、1日で数万件の検査データを扱うユーザも居ます。
1回の検査項目が数個しかない工程もあれば、1回の検査で800以上の検査項目がある工程もあります。

内容が簡単で、ある程度ルールによって整理されたアナログデータならAIにスキャンした内容を推論させ、データを拾わせることは現在でもできますが、問題はその速度です。
当社のi-FLEXで比較テストをしてみましたが、2000行程度のCSVファイルをJSON形式で構造化するのに、i-FLEXは1~2秒に対し、AIにプロンプトから指示して作業させた場合数分かかりました。もちろんAI専用PCのような100万を超えるPCを使えば速くなりますが、特定のアルゴリズムで高速変換するプログラムとは全く比較になりません。
変換するデータが多い場合、AIを使った変換はまだ速度が遅く、費用対効果もまだまだ納得できるレベルではありません。

理由3:データの不足
これは技術的な問題ではありませんが、そもそも紙ベースの帳票の中に、デジタル化する場合に必要な情報が全てあるとは限らないのです。人が必要とする情報と、コンピュータ上の処理で必要とする情報は必ずしも同じではありません。情報が不足している場合、それをどうやって補完するか検討する必要があります。

デジタル化されていない現場は長い時間をかけて手書きの管理に最適化されています。そのプロセスの一部分をデジタルデータ入力に単純置き換えするというような付け焼き刃では、かえって不便になったり、時間がかかったりして、現場からの大きな反発を生む原因となります。現場の作業フローを確認する前に、最適なデジタル化の方法を導き出すのはほぼ不可能です。

理由4:伝統的モノつくり手法 VS アジャイル開発
大切なのは手持ちのデジタルデータで、とりあえず小規模なテスト環境を作ってしまう事です。手書きデータのインプットから最終アウトプットまでの全工程を一から机上で設計するのと、実際に少し使ってみた事で得られる「気づき」を含めて設計するのでは、完成度に天と地ほどの開きがあります。

モノづくりの現場ではハードウェアはほとんどが工程を机上で設計する「ウォーターフォール」式が当たり前になっているので、「とりあえず着手してみる。」というのは文化的に非常にハードルが高く、受け入れ難い考え方です。今でも「アジャイル開発1」と聞くと、「場当たり的で好きじゃない。」と考えるエンジニアは少なくありません。
しかし、ハードウェアも全く新しい試みを取り入れる場合、必ずプロトタイプを作っているはずです。データ分析と、それに必要なデータの取得を「とりあえずやってみる」のは、このプロトタイプの制作に似ています。

初めに目的に合った小規模のシステムを作り、まず手持ちのデジタルデータを運用できる形を作り、それに合う入力方法を考える方が、「何のデータを、どのようなタイミングで、どうやって取得するか?」という条件を具体的に絞りこむ事ができるので、目的がブレず、要件を検討しやすくなります。また、完成形が目の前にあり、デジタル化後のメリットを実際に実感できている状態はモチベーション向上に繋がります。

デジタル変換方法を真っ先に検討すると、「紙で管理していた時より自由度が低くてやりにくい。」「紙で管理していた時の方が手間が無く簡単だった。」というような意見が噴出し、メリットを実感することもないので、なかなか現場の理解を得られません。

紙ベースの管理方法も一夜にして出来上がったわけではありません。長い時間をかけて業務フローに適した入力フォームを作ったり、帳票を配置する場所や、次工程への受け渡し方法など様々な検討を重ねて現在の業務フローが出来上がっているはずです。デジタル化すると「楽になる」は、デジタル化後の業務フローが完成した後の話で、「生みの苦しみ」は避けて通れません。AD変換は、DD変換と比べてこの「生みの苦しみ」が何倍にもなるので、真っ先に着手するのが難しいのです。

デジタルデータ活用のメリットや成果が具体的に見えていない状況で、一段ハードルの高いアナログデータのデジタル変換に着手するのは技術的な理由以上に「意識の変革」の方がはるかに大きな問題なので、あえて「後回し」を推奨しています。

当社はデジタル変換後に何ができるのか、メリットを実感頂くため、iNDEQSの無償トライアルをご用意しています。
無償トライアルのお申込みは下記ボタンから。

まずデータ収集の仕組みから作る」は悪手

全ての検査装置、測定機器のデータをカバーするだけの十分な予算がある場合でも、一度に全設備のデータをデジタル化して、活用しようとする事は、むしろお勧めしません。前段でも言及しましたが、運用開始後の方がはるかに多くの「気づき」を得られるからです。改修の余地を残し、「まずやってみる」事が第一歩として重要です。
最もやってはいけないのが、「予算が足りないから、まずデータ収集の仕組みから作る。」です。順序だてて考えると、データ収集の仕組みが先に必要と思えますが、これは2つの理由で避けた方が無難です。

  1. 活用方法から逆に辿って必要なデータを洗い出すという基本手順に反するため、後で足りないデータ、不要なデータが出てきます。結局、データ再編が必要になり、本来不要であったはずのデータクレンジングや、補完工程が入り、「複雑、遅い、高額」のデメリットを最初から背負う事になります。
  2. 二つ目めは、投資効果が見えない無いという点です。ハードウェアであれ、ソフトウェアであれ、必ず「費用対効果」を求められます。しかしデータを集めただけの段階というのは、言うなれば、「倉庫にバラ積みされていた材料を整理して機械の前に並べただけ。」の状態と何ら変わりません。
    傍から見ているだけでは進捗が分かりません。継続して関係者の興味を引き付けたり、経営陣から予算を獲得する事が困難です。小規模でも良いので、必ずインプットからアウトプットまでを導入段階で完成させ、レポートを自動で出せる、データ抽出が簡単にできる、工程能力が自動で計算できるなど、誰の目にも明らかな「目に見える結果」が残る形でスタートする事が重要です。


どんな品質分析をしたら良いのか分からない。
どんな分析をしたら良いか分からない時点では、まだ分析が必要な段階ではないと考えるべきです。
昨今、「データ分析」と銘打ったセミナーが至る所で開催されています。しかし、それらの殆どが、「まずデータを入力し・・」とか、「CSVやEXCELなどの汎用的なデータを読み込み・・・」などの説明で始まっています。
しかし弊社へお問い合わせでは大手製造業も含めて、殆どが分析ソフトウェアに読込ませるデータを作る事が最大の悩みとなっています。つまり分析はおろか、グラフなどに纏まって整理された形のデータをまともに見たことも無い状態にあるという事です。「見える化」が出来ていない状態で、どのような分析が必要か分かるはずもありません。
このような段階のユーザに「〇〇分析ではXXの傾向が分かります」という説明をしても全く刺さらないため、弊社は初期段階で分析の話を深く掘り下げる事はしません。
本来は、「データを見る限り〇〇という傾向がありそうだが、それを知るにはどんな分析をすれば良いか?」という疑問が先に立ち、その解として様々な分析手法があり、素早く、簡単に行うため分析ソフトを導入する、というのが自然な流れです。弊社でも分析の有用性を訴求していますが、データ活用の導入段階で分析に関する質問を受ける事は殆どありません。
中小企業庁が「身の丈IT」を提唱していますが、品質データに限らず、データ活用については導入するソフトウェアやシステムの価格・規模だけではなく、ユーザのデータ活用リテラシーに合ったものでなければ有効活用できない事を示唆しています。

1988年に富士フイルムから「DS-1P」という日本初の量産品デジタルカメラがリリースされました。当時は画像をデジタル化するだけの機能でしたが、「取り直しが出来る、フィルムや現像が不要」というメリットだけで十分画期的であり高額なデジタルカメラを購入した人も多かったと思います。
ところが、今日ではデジタル画像を記録する機器は(スマートフォンやタブレット)、当然のようにSNSなど、インターネットとのシームレスな連携機能を要求されます。SNSの無い、デジカメが発売された時代には、カメラとネットを連携させる必要があることは誰も思いつきませんでした。

同じデジタルデータでも、導入ステージによってデータの用途は変化します。高度な分析手法は、自社のデータを可視化したこともない段階では、活用法など思いつくはずもありません。どんな分析が必要なのかという問いは、まずデータの可視化をする事で自ずと答えが出るのではないでしょうか。

品質データ活用についてのご相談はコチラまで。相談無料です。

  1. 短期間で「計画・設計・実装・テスト」のサイクルを繰り返し、小さい目標への到達と、修正を繰り返しながら段階的に最終完成形に到達する手法 ↩︎